7.IBCSGCT調査からの浸潤性小葉癌の臨床的特徴より引用
【目的】浸潤性乳管癌(IDC)との比較からみた浸潤性小葉癌(ILC)の臨床的特徴
【研究デザイン】 International Breast Cancer Study Group(IBCSG)に参加している15の施設から1978~2002年に登録された乳癌症例中の浸潤性小葉癌および浸潤性乳管癌を対象とした前向きコホート試験。
検討項目:病理学的因子、ホルモン感受性、再発、予後
【結果】
①小葉癌は767例(6.2%)、乳管癌は8,607例(70.5%)、その他2,832例(23.2%)で、中間追跡期間は13年であった。
②乳管癌に比較し小葉癌は、比較的高年齢層で、腫瘍径が大きく、高分化、ER陽性が多かったが、脈管侵襲は少なかった。
③小葉癌では有意に乳房切除治例が多かった。
④術後早期(6年以下)では小葉癌の成績は良いが、晩期ではむしろ低下し、再発率も増加した。
⑤小葉癌では骨転移の頻度が高いが、局所および肺転移は低かった。
【結論】小葉癌は組織学的なvariantというだけでなく、予後および生物学的特徴を有している。
【島のコメント】小葉癌は多発あるいは両側発生頻度が高く、また、ビマン性浸潤性に増殖し画像検査でその病変の境界を診断することが困難とされる。
発生頻度は比較的多いとされる欧米でも浸潤性乳癌の10%以下、本邦では特殊型の一つとされ1~2%とされ、近年は3~5%と増加傾向にある。
発生母地は小葉内乳管上皮で、乳管癌とは発生母地が異なり、著者らは15の施設より767例の浸潤性小葉癌を集積し、臨床病理学的因子と予後に関して乳管癌との比較検討を行った。
小葉癌は、比較的高年齢で、診断時腫瘍径が大きく、ER陽性率が高い、また、骨転移が多く、肺に転移が少ないことが示されたが、これは従来からの報告と一致する。
予後に関しては、乳管癌より予後良好、あるいは差はないという報告とstageIIでは予後不良であるという報告がある。
今回の検討では、術後6年以下では小葉癌の無再発生存率は乳管癌に比較し良好であるが(event発生率は16%低い)、
以後ではむしろ不良で(54%高い)、生存率でも10年以下で良好(16%低い)、以後で不良(50%高い)、
ER陽性、ER陰性での比較検討でも同様の結果であったが、ER陽性ではその差は小さかった。
局示再発は、5年後では小葉癌6.3%、乳管癌8.0%で、25年後でもそれぞれ13.3%、11.9%で差はなかった。
対側乳房癌発生率は5年後では小葉癌2.6%、乳管癌1.9%、25年後ではそれぞれ8.1%、6.3%と小葉癌に多い傾向が認められたが統計学的有意差はなかった。
以上のように小葉癌の特徴が明らかとなったが、その機序に関して説明はなく、著者らの考察も特になし、淡々と事実のみが記載されていたが、なんだか不思議な論文である。
(消化器外科・乳腺外来・外来化学療法室 島 一郎)
予防的対側乳房切除が有用とみられる乳癌患者を予測する新たな情報/M.D.アンダーソンがんセンター:2009年1月26日(海外癌情報リファレンス)より引用
対側乳癌患者についての詳しい解析により、Gailリスク評価モデルで乳癌の5年発症リスクが1.67%以上、浸潤性小葉癌の組織像、原発乳癌が多発腫瘍であることがすべて対側乳癌の強力な予測因子であった。
患者の人種、エストロゲン受容体の発現、プロゲステロン受容体の発現についてはリスク上昇との相関は認められなかった。
国立がんセンター東病院乳腺科:浸潤性小葉癌の特徴と乳房温存療法より引用
【目的】浸潤性小葉癌(ILC)は術前診断が困難であるが、多中心性の特徴の為、温存術の適応は慎重にすべきと考えられてきた。
ILCを浸潤性乳管癌(IDC)と比較し、その特徴と乳房温存の可否を検討した。
【対象】1992年から2005年に当院で手術施行したILC109例とIDC1483例(Stage I-III)。
【結果】ILCは対象の7%、平均年齢は共に54歳。病期、腫瘍径に有意差なし。
温存術はILC49例(44%)、IDC705例(47%)に施行され、断端陽性はILCで有意(p=0.02)に多かった。
全体でILCは組織異型度、リンパ管侵襲が有意(共にp<0.01)に低かったが、リンパ節転移率は有意差なし。
ER陽性率に差を認めないが、PgR陽性率がILCで有意(p<0.01)に高かった。
温存症例に対する術後照射、術後補助薬物療法はILCで各々91%、88%、IDCで79%、68%に施行され、
有意にILCで補助療法施行率が高かった(p=0.04とp<0.01)。
観察期間中央値はILC59 ヶ月、IDC66 ヶ月、健存率、生存率、温存乳房内再発は有意差を認めなかった。
【まとめ】ILCでの乳房温存は集学的治療で安全に施行可能である。
St.Gallen Conferences2009【S36】Lessons on responsiveness to adjuvant systemic therapies learned from the neoadjuvant setting
M.Colleoni (Research Unit Medical Senology,European Institute of Oncology,Italy)より引用
浸潤性小葉癌は浸潤性乳管癌よりも化学療法の効果は低いが、これは小葉癌にホルモンレセプター高度発現例が多いからと解釈可能である。
ホルモンレセプターが高度に発現している浸潤性乳管癌や浸潤性小葉癌はホルモン療法のみでよい対象かもしれない。
しかし一方で、GradeやKi-67により評価される細胞増殖状況の判断により、ホルモン感受性乳癌であっても化学療法からより多くのbenefitを受けられる患者を同定できる可能性がある。
Breast Cancer .JP:治療戦略:病期別の治療方法:乳癌の病理と分類より引用
・浸潤性小葉癌,および管状小葉型癌は,乳管癌や非特殊型癌(NST)と比較してより良い予後が得られるとの報告があります。
・サブタイプの中には特定の腫瘍マーカーを発現させたり,あるいは特殊な浸潤様式を呈したりするものがあることが明らかになっています。
たとえば,浸潤性小葉癌の転移パターンは特異であり,この種の病変は乳管癌やNSTと比較してエストロゲン受容体(ER)陽性患者で多くみられます。